グローバル・カルテットで請け負う調査業務では、すべての業務に調査PM(プロジェクトマネージャー)をアサインします。IT開発業務ではなじみのあるPM。調査業務においてはどのような役割を果たすのでしょうか。代表の城・PMキャリアの長い岡野・角の3名のマネージャーが「PMの価値」についてお話しします。
PM(プロジェクトマネージャー)とは…
PM=プロジェクトマネージャーの略。IT関連の開発業務において、エンジニアを束ね、プロジェクト全体の品質・納期等に責任を持ち進行管理をする役割を担うことが多い。グローバル・カルテットでは、データ集計や報告書作成のみの切り出し業務ではなく、PMが調査企画も含めて進行し「次の事業アクションへつながる報告書」を一気通貫で担当する調査業務を請け負っている。
主なPMの業務
・クライアントとのコミュニケーションによる調査目的の言語化
・調査計画の立案、要件定義、スケジュールの策定
・調査対象と方法の決定、リソースの最適化
・チームメンバーへの役割分担とタスク管理
・進捗管理と予算の監視、リスク管理
・データの品質管理と調査の精度確認
・調査結果のレビューと報告書作成・提出
PM(プロジェクトマネージャー)不在だと「使えない調査」になってしまう!?
−率直におうかがいすれば、調査計画や要件書があればあとは実行するだけなのでPM(プロジェクトマネージャー)はいらないのでは? と思ってしまいます。予算に限りがある場合は、PMが入ることでフィーが上がる心配の声も多いのではないでしょうか。
城 調査計画があったとしても、それが知りたいことに対して適切な計画になっているかどうかを判断しなければいけません。そのためにはPMが必要です。ですので、グローバル・カルテットで承る案件には必ずPMをアサインし、調査企画から報告まで一気通貫して質の担保をしています。冒頭から少し厳しい言い方かもしれませんが、「調査テーマを決めたのだから、あとはタスクをこなせばOK」という考え方では良い調査は難しいのです。ここは、誤解が多いポイントです。
岡野 「終わった調査データを基にレポートだけ作成してほしい」という部分的な案件も、良い調査にするのは難しいことが多いですね。「あれが高かった、あれが低かった」と各々の調査結果を羅列しているだけの報告書では「ふーん、それでどうすれば?」となってしまいがち。それではクライアントにとっては「使えない」ものになります。やはり調査の目的を把握し、それに適した形でデータを扱う必要があります。
角 残念なことに、せっかくコストをかけても、得るものがないレポートができあがってしまうことは少なくないのですよね。我々がよく見かける「使えない調査あるある」をご紹介しましょう。
グローバル・カルテット代表・城とPMの岡野、角の3名にオンラインでインタビューを実施
多くの報告書をみてきたベテランPMが実感する「使えない調査あるある」をご紹介
使えない調査あるある1
目的が明確になっていない
角 「サービス利用者の実態を把握する」という目的があったとします。一見明確になっているようにみえますが、これではまだ曖昧。なぜ実態を把握したいのかを正確に把握しないと、調査のフォーカスが絞れません。実態把握だとしても、認知が知りたいのと、満足度が知りたいのでは調査対象者が異なり、どちらが適切かは目的により異なります。しかし実際には、目的が大きすぎるままでアンケートができあがっている案件があるのですよね。そのまま調査をしても知りたいことには辿り着けないのは明らかです。
使えない調査あるある2
知りたいことが定義できていない
角 「ロイヤル顧客のことが知りたい」「潜在顧客のことが知りたい」というニーズは適切に知りたいことを定義できているでしょうか? 「ロイヤル顧客/潜在顧客とはどんな人と定義しますか?」と確認すると、明確になっていないことは意外と多いです。この状態でも、なんとなく調査計画書は書けてしまうんですよね。そのまま、なんとなく年代別/男女別/年収別など思いつく限りでセグメントを切ってみたり、10段階で評価を聞いてみたりという、なんとなく調査ができあがる。そういう調査では、細かなデータばかり増えて分析工数も増えるわりには、事業に役立つ意図のある差異がみえてこないことがあります。
使えない調査あるある3
実現可能性の高い調査方法が検討できていない
角 方法を最初から決めてから目的を設定するケースはないでしょうか。ウェブ調査をします、と決めてから目的や計画を立てる場合などをたまに目にします。目的に照らして考えるとその方法が適切でないかもしれません。ウェブで大規模調査をするよりも、数人のデプス調査(※)が有効な場合もあるし、デスクトップリサーチが適していることもあり得ます。
※デプス調査…1対1のインタビュー
PM(プロジェクトマネージャー)角は、調査会社への研修やセミナー、モデレーター養成講座の講師の立場としてPM育成にも携わる
−他のお二人も、ずっとうなずいていますね。「使えない調査あるある」への共感が大いにあるのですね。
角 ご紹介したものも、ごく一部です。「使えない報告書あるある」もたくさんありますよね。ただ単に一問一答が並んでいるだけとか、差異の見えないセグメントでの膨大な帯グラフが並んでいるだけとか……。
岡野 引き継いだ調査書をみると、質問紙が過去の調査のツギハギだったり、最初からなぜか設問数とサンプル数が決まっていたりなどもよくあります。知りたいことから落としていかないと、質問内容も、質問順も、誰に、どのくらいの数、何を聞くかも本来なら決めようがありません。
角 「なんのためにこの数値をとるのですか?」と聞くと「念の為」と返答がくるというのは笑い話にはならないですよね。
岡野 あるある! 「念の為」は、本当によく聞きます。それは「使えない調査」のはじまりかも……。
角 そうならないように、調査の目的を言語化し、仮説を立て、どうしたら知りたいことがわかる調査になるのかを定義していき、納期や予算に合わせて調査の形に落として提案する。その上で仮説を検証していき、次のアクションにつながるストーリーが見える報告書を作成する。この全体を「設計」するのがPMというわけです。
城 「調査設計があるからあとは作業だけ。PMはいらない」が間違いだとよくわかりますね。
「使える調査」と「使えない調査」の違いは、次のアクションに繋がるストーリーが見えるかどうか
ー先ほどから「使えない調査」のお話がでていました。では、ずばり「使える調査」とは何でしょうか?
角 「事業に必要な次のアクションが見える調査」が使える調査だと考えています。
岡野 調査報告書に文脈があり、その先のネクストアクションが容易に想像できるというのは、良い調査の最低条件ですよね。クライアントさんから、調査報告書を読んでも意味がわからないとき「自分の理解力がないから読めない」とか「疲れていて頭に入ってこないのだろう」と自分のスキル不足だと思っていたと聞いたことがあります。わたしは、読者の力不足だとは思いません。調査企画・調査設計が適切にできていないPMに要因があると言いたいです。人間はストーリーで物事を理解するので、文脈のないスライドの羅列からネクストアクションが見出せないのはある意味当然です。
PM(プロジェクトマネージャー)岡野は、リサーチをベースに地方自治体や中小企業のパートナーとしてマーケティング戦略策定へのアドバイス等を行っている
角 調査をするということは、事業を推進していく中で、わからないこと、決められないこと、意見がわかれていることがあるはずですよね。そこに答えが出せるように支援するのが調査PMといえます。調査はクライアントにとってはコストでしかありません。汗水垂らして得たお金で捻出した予算だと考えると、PMは、次のビジネスアクションにつながる調査にすることに寄与できないと仕事をしたとは言えないかもしれません。
−素人考えだと、厳密に計画立てなくても、いろいろ調べれば何かわかるのでは? と思ってしまうのですが……。仮説を立てて調査設計をすることは可能性を狭めてしまうというか……。
城 いやいや、それはないですよ。
岡野 データさえあれば何かがわかるというのは間違いだと思います。膨大な意図のないデータからストーリーを見出すのは不可能ですから。ビッグデータだって仮説がないと活用できないのです。それに、事業とは無関係なストーリーが見つかっても次の事業施策へはつながらないですしね。
「使える調査」が必要ならば、PM(プロジェクトマネージャー)がいないと始まらない
−データさえあれば、魔法みたいに、素敵な報告書ができあがるわけではないということがよくわかりました。
城 そうなんです。だから弊社では必ずPMをアサインしているのです。実際はじめてPMを入れた調査を行ったクライアントさんからは「報告書のクオリティがぜんぜんちがう。これまでやってきた調査っていったいなんだったんだろうと調査の常識がひっくり返った……」と驚きの感想をいただくこともあります。
角 クライアントの担当者も、相談相手を必要としていることもあります。PMは、ヒアリングをしながら、課題を紐解いていき、言語化し、共に仮説を立て、課題解決に必要な情報の優先順位を決めていく役割を担いますから、良き壁打ち相手にもなるはずです。私は必ず「なぜこの調査をしたいのか」「調査をしたら何に使いたいのか」を把握するようにしています。調査というのは事業の流れの中で行うもの。ですから、これまでどのように事業をしてきて、どこへ向かっていくのかを把握し、今何を判断したくて調査をしたいのかを知ることからが調査の開始となります。
岡野 業務をしているとつい目的を見失ったりすることもありますよね。クライアントから言われたことをただ進めるのはよいPMとは言えません。常に目的に立ち帰り、どうすれば予算やスケジュールに合わせて実現ができるかの提案を能動的に行い、プロジェクトを管理すると、手戻りも少なく分析もスムーズ。工期も短くなっていきます。
城 とはいえ、PMがオーダーメイドの設計をする必要がない案件もありますよね。調査の目的もクライアントによって異なりますから、調査会社も目的に合わせて使い分けるのがおすすめです。目的がすでに明確で、とにかくスピーディーにかつ安価に大量のデータを集めたい場合は、AI活用の報告書や大量のデータリサーチが得意な調査会社に依頼するほうが良いでしょう。これは、どちらが良い悪いの話ではなく目的次第。もし、具体的な事業のネクストアクションが見える報告書が必要であれば、適切なPMのアサインは必須になると思います。
今回お話をしたメンバー
岡野麻里
プロフィール
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 修了。
日系および外資系のリサーチ・コンサルティング会社にて、大手消費財メーカーを主なクライアントとし、リサーチにもとづいたマーケティング戦略に従事。その後、岐阜県飛騨市に移住し、インバウンド客をターゲットとした着地型ツーリズムやコンサルティングを行う会社にて、マーケティングおよびリサーチの知見を活かしたプロジェクトに携わる。現在はフリーランスとしてリサーチャーとして活躍しながら、地方創生事業の戦略策定、中小規模の企業への事業戦略アドバイスなども行っている。フリーランスとして、地方創生事業におけるリサーチや戦略策定、中小事業者の事業戦略、マーケティング戦略アドバイスなども行っている。
角泰範
プロフィール
東横浜国立大学を卒業後、複数の調査会社を経てリサーチャー・モデレーターとして独立。定量・定性問わずあらゆる調査手法を、多様な業界・テーマで実践してきた経験を活かし、調査のプロフェッショナルとして生活者理解の観点から、調査プロジェクトを指揮している。調査会社への研修やセミナー、モデレーター養成講座などを通じて、調査のノウハウや経験を伝える活動も行っている。
(インタビュー・文 あさのみゆき)
グローバル・カルテットには、様々なバックグラウンドや専門性をもったリサーチャーが在籍しています。ご依頼や対応可能案件のご相談など、お気軽にHPのお問い合わせフォームよりご連絡ください。